故郷の廃家:饗庭孝男さん、評判呼ぶ随筆 地域づくりのきっかけに−高島
2005年7月7日
 著名な文芸評論家で青山学院大名誉教授の饗庭孝男さんが、饗庭家ゆかりの高島市新旭町や自身が一時暮らした同市安曇川町など、湖西の風土や今昔をたどりながら、自身と家族の歴史を描いた随筆「故郷の廃家」(新潮社)が評判を呼んでいる。本を読んだ地元の人たちからは「克明に記録されてよかった」など、薄れゆく地域の昔の雰囲気や歴史を書き留められたことを喜ぶ声も聞こえる。饗庭さんの講演会も企画され「地域づくりのきっかけに」との期待も高まる。

 「故郷の廃家」は文芸誌「新潮」で昨年1、2月に掲載され、今年2月に単行本化。饗庭さん自身の生い立ちや思い出、家族の生と死の情景に、饗庭家が続いてきた高島市新旭町饗庭、母方の家族が出た同市安曇川町田中をはじめとする、ゆかりの土地の歴史が重ねられる。日本海側に似た雪の多い風土。巫女(みこ)が主導する夜伽(よとぎ)やのぼりなどの葬列からなる葬送の習俗。戦争。1人、2人と彼岸に旅立つ親類や家族……。私小説ならぬ「私歴史」との思いでつづった土地と人々の物語だ。

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 「なんでこれほど人気があるのか、よく分からないけどなあ」。「廃家」の横に住む饗庭さんのまたいとこ、饗庭福一さん(65)は首をひねる。5月には本を読んだ名古屋の女性3人が訪ねてきた。「廃家」がある日爪の集落を案内した。後日、お礼の手紙が届いた。「田舎に帰ったような気持ちがした」といった内容が書いてあった。

 「本に描写されてる過去のムードがここには今も残ってる。時代に取り残されてるのかもしれないが、そこに良さを発見しているのかも。子ども時分のことが克明に描かれていて懐かしい。感激したよ」と福一さん。

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 饗庭孝男さんの講演会が8月17日午前10時、今津文化会館で予定されている。地元の小中学校の教職員らのための教育講演会だが、一般の人も入場できる。企画する白井重樹・今津中校長は「本の中でこの地域について古代から現代まで詳しく書いておられる。高島市発足1年目にふさわしいと思った」。「(地域同士の)つながりを認識し、まとまりのある人づくりや教育のありようを考える機会としたい」と思いを込める。無料。問い合わせは白井さん(今津中、0740・22・2161)。
毎日新聞


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