性善説、静かなブーム 中江藤樹 安らぎと自信与える
2005年3月13日
 近江聖人と称された儒学者・中江藤樹(1608−48)がいま、注目を集めている。武士を捨て儒学者として、「人は誰もが生まれながらにして美しい心を持つ」と説いた藤樹。現代の殺伐とした世情の中で、没後約350年を経た「藤樹ブーム」の実情と背景を探った。

 藤樹は小川村(現高島市安曇川町)の農家に生まれ、武士の祖父のもとで儒学を学んだ。大洲藩の郡奉行まで務めたが、脱藩。母親の住む村で私塾「藤樹書院」を開き、良心を磨き続ける「致良知」、他者への顔つきや言葉遣いなど心の「五事を正す」教えを武士や農民に説いて慕われた。

 財団法人藤樹書院によると、年間約7000人が訪れる藤樹書院には近年、若者の来訪が目立つという。2月から販売する藤樹の生涯を描いた映画「近江聖人中江藤樹」のビデオとDVDの注文が県内外から相次ぎ、わずか1カ月で約3100本が売れ、取り扱う市は反響の大きさに驚いている。

 その映画を見た静岡県伊東市の会社役員白鳥宏明さん(44)は「母親を案じ、地位と名誉を捨てた純真さに心が洗われる」と話す。「五事を正し、子どもと接すれば、親の気持ちが伝わる」と言うのは、高島市安曇川町青柳の看板製造業渕田泰士さん(35)で、子育てで実践しているという。

 ブームについて、藤樹の思想に詳しい吉田公平東洋大大学院教授(中国哲学)は「人の本性を善とする藤樹の教えが厳しい競争社会を生きる人たちに、安らぎと自信を与えている」と分析する。

 一方で「藤樹に関心があるのは主に年配者で、若者の反応は、まだまだ鈍い」という指摘もある。地元の女子中学生も「習ったけれど興味がない」と話すなど無関心な声も多く聞かれた。

 3月7日、藤樹が学問を志した年齢と同じ小学3年を対象に、恒例の「立志祭」が高島市安曇川町で行われた。児童らは「獣医さんになって動物の命を救いたい」「人を楽しませる芸人になりたい」などと書いた作文を書院に納め、夢の実現に向けて努力を重ねると誓った。この純真な心をはぐくむ必要性を、藤樹は今の世に問いかけていると感じた。
京都新聞


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