針を絵筆に替え水彩画、今津の長谷川さんが個展−9日から安曇川町で
2004年4月7日
 日本刺繍(ししゅう)「京繍(きょうぬい)」の伝統工芸士として長年活躍してきた女性が糖尿病網膜症を患い、残されたわずかな視力と夫の支えを頼りに、針を絵筆に持ち替えて新たに水彩画に挑戦。9日から安曇川町田中のギャラリー藤乃井(0740・32・0150)で、大切に残してきた京繍の作品と近作の水彩画の個展を開く。

 今津町松陽台1、長谷川悠紀子さん(64)。京都に生まれ、18歳で同市の刺繍店に弟子入りし修業を積んだ。38歳の時、女性では最年少の京繍伝統工芸士に認定。着物や帯などを華やかに彩る刺繍を次々生み出した。

 13年前、会社員だった夫利男さん(73)の定年退職を機に、空気の良いところで住みたいと願い、今津町に引っ越した。湖国での暮らしにもなじんだ6年前、悠紀子さんに糖尿病という思いもよらない診断が。翌年、合併症の網膜症で視力が極端に落ち始めた。針に糸を通せなくなった4年前、42年間続けた京繍を断念するしかなかった。

 しかし、色彩への思いを断ち切れず、近くに住む水彩画家、川合〓(のぼる)さん(84)に師事。利男さんも妻を手助けしようと、共に水彩画を習い始めた。風景を描く時は利男さんが車で連れて行って説明し、さらにカメラで撮影、悠紀子さんは写真を虫眼鏡で見て確かめた。色彩は良く見えていた時の記憶が頼り。夫妻の姿に打たれた同ギャラリー経営、伊藤千津子さん(62)の勧めで個展が実現した。

 今回は「海津の桜」など水彩画7点、刺繍入り着物など京繍作品13点に、利男さんの水彩画3点も展示する。悠紀子さんは「個展というチャンスを与えていただき、病気と闘う苦痛を乗り越えることができた。多くの人に見ていただけたらうれしい」と話している。
毎日新聞


HOME
Copyright (C) 2003 Shoei Real Estate Corporation. All Rights Reserved